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新専門医制度で専門医を取る必要性は?取らないデメリットは?

専門医取得の必要性

◎新専門医制度で専門医を取る必要はある?

若手の医師の方にとって「専門医の取得」は医師としてのキャリアを積む上での目標の1つとなっていることが多いのではないでしょうか。

ちなみに、2018年4月に「新専門医制度」が当初の予定から1年遅れでスタートし、専攻医1年目に当たる若手医師の9割以上がこの制度で専門医を取る道を選んだようです。

(*制度開始2年目となる2019年度の専攻医数は約8600人で、前年より約200人増加)

この「9割以上が新専門医制度に登録」と言う高い数字の背景には「新専門医制度の先行き不透明さ」が大きく影響していると思います。

「どうなるかわからないけど、とりあえず空気を読んで周りと同じようにしておくか」という専攻医の心理が見え隠れします。非常に現実的な選択ですね。

専門医の必要性

しかし、この度開始された「新専門医制度」に則って新たに専門医を取ることは本当に必要なのでしょうか?

と言うのも、新専門医制度には「失敗ではないか」等の批判や反対の声も多く、現時点では僕も個人的にはあまりこの新専門医制度を評価できないというのが正直な感想です。

このページでは新専門医制度の問題点や若手医師の方のキャリアプラン等についてわかりやすくまとめてみましたのでご覧ください。

◎旧専門医制度の問題点は?

そもそも「新専門医制度」が開始された理由のは1つは「専門医の質や価値が不透明でわかりにくい」という懸念があったためです。

確かに、旧来の専門医は取得にはそれなりの手間がかかるものの更新や維持は比較的簡単なものでした。

専門医を維持するためだけに学会に形だけ参加していても更新の基準がクリアできることも多く、「専門医を取得、維持している=優れた医師である」とは限らなかったのです。

(専門医維持だけを目的とした学会参加は「スタンプラリー」等と揶揄されることもあります)

医師の学会出席

◎「専門医の質」の問題は新専門医制度で解消されたか?

旧専門医制度では各学会が独自に設けた基準をクリアした医師を「専門医」として認定しており、学会によってその基準はバラバラでした。

基準がバラバラなので、専門医の取得や更新の難易度もバラバラで、専門医の質の透明性の問題が持ち上がったのです。

では、新専門医制度では専門医の質の問題がクリアされたかというと、必ずしもそうではありません。

新専門医制度では各学会ではなく、学会とは中立的な第三者である「日本専門医機構」が専門医を認定することとなりました。

ただ、この日本専門医機構が「どのようにして専門医の質を保つか」という肝心な部分については不透明な所が多く、旧制度の問題点が解消されたとは言い難いでしょう。

◎専門医の質は更新の難易度と比例する

旧来の専門医制度では専門医を維持するのが比較的容易であったことが専門医の質への疑問を招いたと考えられます。

大したハードルもなく誰でも更新、維持できる専門医資格に有難みはありませんよね。

専門医更新のハードル

では専門医の質を高めるにはどうしたら良いかと言えば、専門医の取得だけでなく更新のハードルも上げれば良いのです(更新の度に難しい試験を課す、等)。

しかし、多くの医師は日常業務で疲弊しており、あまり専門医更新のハードルを上げてしまうと、誰も更新できなくなってしまうので、バランスは難しいところです。

ただ、「この医師は専門医を持っているから信頼できる」というレベルまで専門医という肩書に信頼性を持たせたいのなら、ある程度のハードルはあって然るべきだと思います。

もし、新専門医制度においても簡単に専門医が更新できるままであったとしたら旧来の制度と大差なく、「専門医の質を確保する」という目的を達成するのは困難でしょう。

◎新専門医制度の隠れた目的は医局の復権?

新専門医制度が批判されているのは、「新専門医制度で医局の復権を」という意図が見え隠れしている点にもあると思います。

と言うのも、専門医取得に必要な研修を受けられる病院(=基幹施設)が大学病院等の規模の大きい病院に限られているという事情があるためです。

基幹施設と認定される基準はそれなりに厳しいため、地方によっては実質的に大学病院くらいしか選択肢のなく、入局を余儀なくされるところもあるようです。

今後の運用で施設基準の見直し等がなされる可能性もありますが、事前の検討が不十分な制度に人生を振り回される若手医師はたまったものではありません。

◎専門医を取る意義やメリットは?

専門医取得のメリット

それでは、そもそも「医師にとって専門医を取る意義メリットは何なのか」を考えてみると、はっきり言って大したものはありません

まず、専門医と非専門医で診療報酬上の差が出ることはわずかな例外(放射線科の「画像診断管理加算」等)を除いてありません。

よって、転職の際も、雇う病院側からすると医師が専門医でも非専門医でも診療報酬上での差はありません。

(*ただ、病院や診療科によっては求人に「専門医の保有」を条件としている所もあるようです。僕の科ではそうした求人は見かけませんが、自分の科の求人をチェックしてみてください)

では専門医の資格が何の役に立つのかというと、「初見の相手(医師や患者等)に対するハッタリ」くらいだと思います。

「この先生は専門医なのか。じゃあ良い医者なのかな?」と思ってくれたらラッキーという程度です。

専門医の信頼性

しかし、その人が良い医者であるかどうかは長く付き合えば相手にもわかってしまうものです。

専門医という肩書で取り繕っていても、中身が伴わなければボロが出るのです。

ボロが出ない程の短い付き合いであれば専門医と言う肩書に助けられることもあるかもしれませんが、こんなことの為に専門医を取る必要性や意義があるかというとね…

また、開業医の方にとっては見栄えやブランドも勤務医より大事でしょうから、専門医を持っておくというのはアリかもしれません。

◎大事なのは専門医と言う肩書ではなく、個人の能力

単純に考えると、「世の中の医師」とその「仕事の評価」には以下の4パターンがあります。


  1. 仕事のできる専門医→さすが専門医!

  2. 仕事のできない専門医→専門医のくせに大したことない…

  3. 仕事のできる非専門医→専門医でもないのに凄い!

  4. 仕事のできない非専門医→専門医を持っていないとやっぱりね…


要するに、専門医の肩書の有無にかかわらず、その医師の技量や能力によって評価は変わってくるということです。

「仕事はできないけど、この人は専門医だから凄い!」とはなりません。専門医の肩書はその程度のものなのです。

◎専門医を取るデメリット

専門医取得のコスト

専門医を取るメリットは上に書いたように大したことはないのですが、専門医を取るデメリットは何かを考えてみます。

簡単に言うと、専門医を取るのにかかる時間やお金等のコストの問題があります。専門医の更新や維持にも当然お金や時間等のコストはかかります。

このコストに見合うメリットが専門医にあれば良いのですが、実際には上に書いた通りで大したものはありません

また、新専門医制度では大学卒業後の初期研修終了後、さらに3年以上かけて専門医取得のためのプログラムをこなしていくことになります。

ストレートで大学を卒業して初期研修を終えても26歳、そこから3年以上経つともう30歳です。

この辺りの年齢は結婚や出産、育児等のライフイベントと重なるので、専門医取得を優先しているとライフイベントが疎かに…という悩みも出てきます。

専門医取得と出産

結婚だけなら専門医取得と並行してできなくもないかもしれませんが、出産や育児等はどうですかね?

また、新専門医制度は「カリキュラム制」よりも融通の利かない「プログラム制」が基本であるのも困った点です。

ただ、カリキュラム制の導入等も検討されているようではあるので、今後の運用に期待したいところです。


(*「出産・育児・介護等」の理由で休職・離職する医師等に関しては「プログラム制」から「カリキュラム制」への移行も認められるようです)

専攻医の研修登録はプログラム制が基本となりますが、以下の場合にはカリキュラム制を選択できます。カリキュラム制の詳細については、日本専門医機構の整備指針に記載されており、一部の領域学会でも用意されておりますので、ご相談ください。なお、カリキュラム制を選択される場合は、領域学会ならびに当機構の承認が必要となります。

1)義務年限を有する医科大学卒業生、地域医療従事者(地域枠医師等)

2)出産、育児、介護等のライフイベントにより、休職,離職を選択する医師

3)海外・国内留学する医師

4)その他領域学会と機構が認めた相当の合理的な理由な場合

(引用→【専攻医登録について】カリキュラム制を選択される先生方へ:日本専門医機構HPより)

◎専門医を取らないメリット

専門医を取らないメリットとしては、前述したような専門医取得や更新等にかかるお金や時間等のコストが浮くという点があります。

また、新専門医制度のプログラムに参加しなければ、卒後3年目から名実ともに「主治医」として診療にあたることもできるかもしれません。

一方で、専門医の研修では基幹施設と連携施設をローテートする関係から、初期研修のローテートでもあったような、いわゆる「お客様状態」となることも危惧されています。

「主治医としての自覚」の芽生えが遅れるのはその後の医師人生に少なからず影響しそうな気がします。

◎専門医を取らないデメリット

個人的には新専門医制度で新たに専門医を取得することは特にお勧めという訳ではないのですが、専門医を取らないデメリットについても考えてみます。

(*ちなみに新専門医制度に関して厚労省の「専門医制度新整備指針(2017年6月)」では、「専門医を取るのは義務ではない」とされています)

専門医をとらないデメリットは、端的に言うと「医師の中での世間体」でしょう。

専門医を取らないデメリット

冒頭に書いたように、新専門医制度初年度は若手医師の9割以上が専攻医として専門医の研修を開始しました。専門医を目指さない医師は少数派ということです。

逆に、「皆と同じじゃない」ことを気にしない人には特にデメリットはないでしょう。

別に医師としての技量を高めるだけなら学会の講演を聞いたりすることは必須ではないですしね。各人の取り組みや心がけ次第でいくらでも高められるでしょう。

また、新専門医制度の運用が今後うまくいかないようであれば「やっぱり専門医を取るのはやめよう」と考える若手医師も増えてくると思います。

そうなれば「世間体」というデメリットすら薄まってくるので、ますます専門医取得の必要性や意義がなくなってくると思います。

◎専門医を取った方が良い人、取らなくても良い人

新専門医制度で専門医を取るのは特にお勧めしませんが、別に取るのが悪いということはありません。

ただ、個人的には「結婚や育児等のライフイベントを犠牲にしてまで最短ルートで取る必要はない」と考えます。

専門医取得とワークライフバランス

逆に、専門医取得のプロセスがそうしたライフイベントや人生の邪魔にならず、前述したお金や時間等のコストも許容範囲であるなら取得を目指すのも悪くないと思います。

この辺りの考え方は各人の人生観にもよるでしょう(ちなみに僕は入局後5年で医局を辞めた理由-医師の仕事と家庭のバランスにも書いたように「仕事よりも家庭重視」です)。

また、子供が小さい内は何かと子供に手を取られるものですが、小学校に入るくらいなら多少の余裕は出てくると思います。

それくらいになって改めて考えた時に「やっぱり専門医を取りたい」と思うのであれば、そこから開始するのでも遅くないのではないでしょうか。

結局は、その人が医師として、一人の人間として何を優先してどういう人生を送りたいかにかかってくるので、その辺りを一度よく考えてみるべきだと思います。

◎もし自分が専攻医1年目だったらどうする?

「もし今の時点で自分が専攻医1年目だったらどういうキャリアを選んでいくか?」をちょっと考察してみます。

まず、2年間の初期研修が終了した後は、とりあえずは興味のある基本領域の専攻医として勤務する可能性が高いですね。

新専門医制度に対して内心あまり肯定的でないにしても、「同期の9割以上が新専門医制度のプログラムに則って研修を開始している」という現実は無視できません

流石に全体の1割以下の道を初めから選ぶほどの勇気は僕にはありません…あまりに少数派に属していると困った時に相談できる相手も少ないですしね。

「基本領域の専攻医として勤務する」以外の選択肢は実質的にはあまりないと言って良いでしょう。

ただ、新専門医制度のプログラムで研修するからと言って、別に将来専門医資格を取らないといけないわけではないはずです。

「仕方なく新専門医制度のプログラムで研修はするけど、将来専門医の取得や長年にわたっての維持を目指すかどうかはまだわからない」くらいのスタンスで行くと思います。

そして基本領域の研修が3年で終わったとして、その時点でストレートに行っても29歳(卒後5年)。同期でほぼ横並びだったキャリアに差が出てき始めるのはこの頃からでしょうかね?

基本領域の研修後は、何らかのサブスペシャリティ(サブスぺ)領域の研修に進んで一度は専門医資格取得にチャレンジするかもしれません。

ただ、専門医制度が「質の担保」等の面での問題点を改善できていないようなら、恐らく5年後に更新することはせず、専門医制度からは距離を置くでしょう。

(場合によっては、初回取得すら見送るかもしれません)

逆に、専門医制度が自分にとって魅力的な制度となっていれば更新し続けていくでしょう。

どちらにせよ、「自分にとって専門医にメリットや必要性があるかどうか」を自分なりに考えてキャリアを選択していのが重要なはずです。

「周りの人が専門医を取ってるから何となく」みたいな感じで流されるのは個人的にはお勧めしませんね。

◎おわりに

新専門医制度や専門医取得のメリット、デメリット等の個人的な考えを書いてみました。

専門医取得について迷っている若手医師の方等の参考になれば幸いです!

また、もし現時点で「医局を辞めたい」「転職したい」と考えている方は、以下のページ等も参考にしてみてくださいね!

医局の辞め方マニュアル-医師の転職の方法や注意点-

医局の辞め方-退局を希望する医師が必ずすべきこと

医局を辞めた医師が感じた最大の障害と対処方法