◎AIの進化で医師も仕事がなくなって失業する?
近年のAI(人工知能)やテクノロジーの進化や発展の速度は目覚ましく、様々な分野での応用が進んでいることは医師の皆さんもご存知だと思います。
特定の分野では人間の能力を超えたAIも既に出現しており、例えば2017年には囲碁の世界最強のプロ棋士に勝利したAI「アルファ碁」が話題になったりしましたよね。
また、医療分野でも医師が見抜けなかった特殊な白血病を診断したAI「ワトソン」や、手術支援ロボット「ダヴィンチ」等が既に登場しています。
今後もAIが発展していくのはほぼ確実でしょうが、そうなると気になるのは「AIが発展すると医師の仕事はどうなる?」「医師も失業するのでは…」ということではないでしょうか。
「医師が失業を心配しないといけない時代」というのも世知辛い気がしますが、何事も「備えあれば憂いなし」です。
ということで、当ブログ記事ではAIが発展した将来の医師の仕事や、AIに置き換えられずに残る診療科、逆にAIの発展で消える仕事等についてまとめていきます。
◎AIが人間の知能を超えるのはまだ先?
「医師の仕事がAIに奪われるなんてまだ先の事」と考えている方は…ちょっと甘いかもしれません。
まず、AIの専門家の予測によると、AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ(=技術的特異点)」は2045年までに訪れるとのことです(2035年と予測する方もいます)。
シンギュラリティについて、米国のコンピューター研究者であるレイ・カーツワイル氏は、著書『The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology』中で、2045年にその特異点を迎えると予言している
(*参考→人工知能「2045年問題」 コンピューターは人間超えるか)
「2045年ならまだ先か」と思うかもしれませんが、AIの進化は爆発的、指数関数的で人間の予測を上回ることもあります。
例えば、前述した囲碁のAIが世界最強の棋士に勝利したのは、「AIが勝つにはまだ10年はかかる」と思われていた矢先のことだったそうで、関係者の衝撃は大きかったようです。
つまり、AIは「現時点で人間が予測しているよりも急速に発展していく可能性」が十分にあるということです。
(*2022年12月にOpenAIが公開した「ChatGPT」のAIによる自然な回答も衝撃的でした。まだ内容の正確性等に難はあるようですが、今後も発展・改善していくことでしょう)
既に定年間近の医師の方はともかく、若手や中堅医師の方は「自分が現役で働いている間は大丈夫だろう」とうかうかしていられないかもしれません…
◎「AIが得意な事」と「人間が得意な事」の違い
「現在存在している仕事(医師を含め)の約半数は今後の20年程度でAIに置き換えられる」と専門家は予測しています。
世界中の半分の人が失業するとなるとインパクトは大きいですよね。
とは言え、AIも万能ではなく、得手不得手はあります。
AIが向いている仕事もあれば、人間の方が向いている仕事もあるのです。
では、医師の仕事で言えば「AI向きの仕事」と「人間向きの仕事」とは具体的に何なのでしょうか。少し考えてみたいと思います。
◎医師の仕事で「AI向き」なこと
まず、医師の仕事で「人間よりAIに向いていること」について考えます。
AIは文字通り、機械的な情報収集や処理に長けています。人間では読み切れない程の文献もインプットできますし、データ処理に変なバイアスをかけることもありません。
よって、医師の仕事で言えば「診断(特に画像や血液データ等)」、診断に基づいた「治療法の選択」がAI向きであり、この辺りは「AIに代替されやすい部分」と考えられます。
◎医師の仕事で「人間向き」なこと
一方、医師の仕事で「AIより人間に向いていること」について考えます。
人間の知能を超えたAIに対して人間の医師の強みとは一体何でしょうか?
恐らくそれは「人間同士のコミュニケーション」です。
と言うのも、病気の治療というのは、診断や治療薬が正しいだけでは不十分ですよね。
例えば糖尿病の患者さんをAIが診断して「適切な食事指導や運動が必要」と判断したとしても、AIの指示に「はいそうですか」と素直に従える人ばかりではないでしょう。
生身の人間である患者さんに適切な治療を受けてもらうためには、医師の「人間味」も必要だろうと思います。
まあ、将来AIによる治療が十分に浸透した世の中になれば、人間味も不要で「AIで十分」となるかもしれませんが、「AIに指導される違和感」は簡単には消えないと思います。
また、AIが提示した治療法の中から最終的に治療方針を決定し、治療の責任を取る役目も人間の医師が担うことになるでしょう。
これらの「人間味を持った指導」や「最終的な責任」の辺りが医師の仕事の中で「AIに代替されにくい部分」でしょうね。
◎AIの進化で医師も失業?「なくなるかもしれない診療科」は?
前述したように、医師の仕事の中には「AIに代替されやすい部分」と「AIに代替されにくい部分」があり、その配分は診療科によって異なります。
よって、将来残る診療科は「AIに代替されにくい部分が多い科」であり、なくなる(医師が余る)かもしれない診療科は「AIに代替されやすい部分が多い科」と言えるでしょう。
まずは「AIの発展でなくなりそうな診療科」から書いていきますが、あくまで個人的な予想なので、あしからず…
数ある診療科の中で、AIに置き換えられそうな部分が多いのは「放射線科診断医」や「病理医」等でしょう。
「膨大な過去の画像データ」から「目の前の症例画像と類似しているものを探す」というのはAIの得意分野ではないでしょうか。
ただ、放射線科でもIVR等の「治療が専門の医師」は、診断が専門の医師よりはAIの影響は受けにくいと思います。
また、身体診察のようなアナログな所見ではなく、血液検査データのようなデジタルな所見が診断に重要な科(一部の内科系)もAIに代替されやすいかもしれません。
アナログな所見はデジタルな所見に比べて術者の技量に左右される部分が大きいですからね。胃カメラなんかも一種の「職人芸」みたいなもんでしょう。
ただ、胃カメラ等は将来的には「カプセル内視鏡を飲み、画像データをAIが解析する」というような、「術者の技量が問われない時代」になるかもしれません。
◎AIが発展しても失業せず「残りそうな診療科」は?
続けて、AIが発展しても「残りそうな診療科」について考えてみます。
まず思いつくのは外科系ですが、前述した手術支援ロボット「ダヴィンチ」のような技術がより発展すれば、外科の仕事も安泰ではなくなるかもしれません。
いつかは手術の「支援」だけでなく、手術の初めから終わりまで「完遂」するロボットが登場するかも…いつになるかはわかりませんが。
また、精神科は「診断」は不眠やうつ病等はAIで代替できる部分も多そうですが、統合失調症での幻覚妄想等の「了解不能な訴え」をAIがどう判断するんでしょうね?
いくつか質問に答えた時点で「この人の訴えは妄想だな…?」とAIが判断していくことになるんでしょうか。
なお、精神科の治療効果に関しては「人間味」や「人間性」に左右される部分がかなり多いと思いますので、治療の面でも精神科は残るような気がします。
拒食症やアルコール依存、パーソナリティ障害等の治療や指導等が適切にできるAIが完成したら奇跡でしょう。
◎医師を超えるAIが完成しても、普及にはタイムラグや地域差あり
いつかは「医師の仕事を代替するようなAI」も完成するのだとは思いますが、そうしたAIが完成したからと言って、即座に日本中に行きわたるわけではありません。
例えばCTやMRI、電子カルテ等も便利なツールですが、登場からかなりの期間が経っても全ての病院に普及しているわけではないですよね。
これらが全ての病院には普及していない理由はコストの問題もあるでしょうし、そこまで専門的なツールをそもそも必要としない医療機関もあるでしょう。
AIに関しても、「AIを搭載した医療機器」の「設置や維持のコスト」がどれくらいになるのか想像もつきませんが、初期はおそらくかなり高額でしょう。
そこから徐々に競争やコストカットが進んで安価で導入できるようになれば普及も進んでいくと思いますが、日本全体に行きわたるのはAIの完成からかなり先な気がします。
日本のこれまでの経緯を振り返ると、他の医療機器と同じく、AIを搭載した医療機器の普及はおそらく都市部が先で、離島等にはなかなか普及しないでしょう。
よって、離島やそれに準じた「医療資源の乏しい地域」で「ジェネラリスト」として活躍できる医師はしばらく需要があるのではないでしょうか。
◎おわりに
AIが発展した将来の医師の仕事や、AIに置き換えられずに残る診療科等についてまとめてみました。
冒頭にも書いたように、AIの進化の速度は思ったよりも早く、自分が現役で働いている間に実用化されるかもしれません。
もし現在の診療科の将来性に不安があったり、労働環境に不満があって「医局を辞めたい」等とお考えの医師の方は、「転科」や「転職」も視野に入れることをお勧めします。
医師の転科や転職の方法等については医局の辞め方マニュアル-医師の転職の方法や注意点-のページも参考にしてみてくださいね!
また、「AIの進化で失業が心配」という医師の方の根本にあるのは「経済的な不安」ではないかと思います。老後の生活等に経済的な不安のある医師の方は下の記事も参考にどうぞ!
参考記事→医師にお勧めの資産形成の方法まとめ