◎どこもかしこも医師不足
日本の「届出」医師数は厚労省のデータ(平成28年12月)によると約32万人とのことです。
医師の数は年々微増してはいるものの、「医師が足りない」と感じている病院は多いのではないでしょうか。
また、医師の「人数」の問題の他に「偏在」の問題も指摘されています。
単純に考えると「足りないなら増やせば良い」のですが、そうすると懸念されるのが「医師の質の低下」ですよね。
あるいは「供給(医師の人数)が増えることで医師の待遇が悪化する」という懸念もあるかもしれません。
医師の数はどのくらいが適当なのかは悩ましいところのようです。
ただ個人的には前述の懸念があるとしても、もう少し医師の数を増やす方向でも良いのではないかと思うので、このページではその辺りの思いを書いてみます。
◎医師の「質」と「量(人数)」の適正なバランスは?
医師の数を増やそうと思うなら、「医師国家試験の合格率を上げる」か「医学部の定員数を増やす」か、といったところでしょうか。
しかし、それによって医師になれる人のハードルが下がり、医師の質の低下につながりかねないというのは理解できます。
ただ、一人一人の医師の質が高くても、マンパワー不足で慢性的に激務の状態では十分な力が発揮できない気がします。
(*厚労省のデータ等では、当直明けの医師の注意力等は「ほろ酔い状態」状態と同程度に低下しており、患者の安全性確保に問題があるとされています)
それよりは、一人一人の医師の質は少し低くてもマンパワーを潤沢にして仕事の負担を減らし、フルに力を発揮してもらった方がトータルでは高いパフォーマンスを発揮できるのではないでしょうか。
例えば「100の能力の医師(疲弊して実質90以下の能力かもしれない)が5人」より、「80の能力の医師(概ねフルの力が出せる)が7人」いる方が全体としては高いパフォーマンスを維持できるのではないか、という感じです。
まさに「質より量」の考え方ですが、トータルで最適なパフォーマンスを発揮できる「医師の質と量のバランス」は難しいと思います。
◎そもそも医師の仕事にそんなに頭を使うか?
これも個人的な感覚ですが、そもそも日常の医師の仕事って…そんなに頭を使いますかね?
勿論診療科や場合にもよりますが、大体はルーチンワークで事足りることが多くありませんか?(毎日頭をフル稼働して働かれている医師の皆様、すみません)
超一流の仕事(研究含む)をするなら別ですが、その辺の普通の医師に偏差値70前後の知能が必要かと言うのは個人的には疑問です。
最前線で働くような一流は別として、そうでもない「普通の仕事」は普通の二流の医師でも十分まかなえるように思います。
実際は「二流の医師」でもできる仕事を変に「能力が高くないとできない仕事だ」みたいに思いこんで間口を狭くするのは自分たちの首を絞める行為ではないでしょうか。
「少数の天才」がいるよりも「多数の凡人」がいる方が、医療の大半はうまく回る気がします。
そういう意味では、医師国家試験の合格率なんてほぼ100%でも良いんじゃないですかね?医学部6年生まで行けば、かなりふるい分けされていると思いますし。
そこまで行けたなら、試験の点数の多少の良しあしよりは「サービス業」に必要なコミュニケーション能力等が、もうちょっと重視された方が良い結果を生む気もします。
まあ、その辺は客観的で公平な評価は難しいでしょうけど。
◎そもそも現在の医療の質を維持する必要があるのか?
日経メディカルで医師の働き方改革に不満がある医師の話を読み、価値観の違いに愕然とした。医療崩壊の懸念と言うけど、今の医療水準って末端の医師が過労死する程働いてまで守るべきものかな?等身大の努力で提供される水準が今より低かったとしても、それがこの国の人間の本来の寿命じゃないのかな。
— パパ勤務医はぴえすた@退局5年目 (@ishitenshoku777) 2018年3月16日
Twitterにも書きましたが、僕は「現在の日本の医療の質」を無理して(過労死する医師が出るような状況を放置してまで)保つ必要があるのかも疑問です。
日本が「長寿大国」であることは良いことであると扱われますが、この国の「長寿化」と「幸福度」が比例しているようには思えません(健康寿命を延ばすのは賛成ですが)。
高齢者にかかる医療費は年々増大し、財政を圧迫して至る所にしわ寄せが来ています。
国民皆保険で誰でも安価で好きな病院にフリーアクセス、かつ医療水準も高いって他国から見ると「本当にできるの?」って感じかもしれんけど…できないよね、やっぱり。他国が真似しない(できない)のはそれなりの理由があるんだよ。身の丈に合わない看板掲げて自縄自縛になるのはそろそろやめにしたい。
— パパ勤務医はぴえすた@退局5年目 (@ishitenshoku777) 2018年10月15日
僕は日本にもっと「太く短く生きる」風潮が根付けば良いと思っています。「経口摂取できなくなったら寿命」くらいの感じです。
こうしたスタンスであるため、医師を増やして医師の質が下がることで現在より日本の医療水準が下がり、平均寿命が短くなったとしても、それはそれで良いと感じています。
このような事を書くとお怒りの方もおられるかもしれませんが、日々の診療で高齢の患者の方等と接する中でこうした思いを抱くようになりました。どうかご容赦くださいませ。
◎医師の数が増えたら給与も下がりそうだけど・・
医師の人数が増えれば医師の給与はおそらく下がるでしょう。需要と供給のバランスがありますからね。
僕も給与が下がるのが嬉しいわけではありませんが、それで医師全体の労働環境が改善されるのであれば、ある程度なら許容できます。
「年収が800万円を超えると、それ以上稼いでも幸福度は変わらない」等とも言われますし、医師の場合は現在より多少給与が下がっても幸福度はあまり下がらない気がします。
「稼ぎと幸福度が比例するのは年収800万円まで」みたいな話があるけど(実感としては正しい気がする)、大抵の医師は到達済のラインだから今以上に経済的豊かさを追求しても幸せには直結しない事になる。僕の場合は家族と過ごす時間が幸せ。自分や家族が幸せで初めて周りにお裾分けもできるってもんよ。
— パパ勤務医はぴえすた@退局5年目 (@ishitenshoku777) 2018年5月12日
個人的に許容できる給与の範囲は今の3分の2くらいまでですかね。半分だと抵抗があります。
仮に給与が3分の2になっても人数が1.5倍になって皆が楽になるなら、それはそれで良いと感じます。
◎おわりに
医師不足の現状や、医師の質と量のバランス等について書いてみました。
僕個人は今の仕事の環境に十分満足していますが、そうでない方も多くおられると思います。
医師を含め、この国全体の幸せの総量が増えることを願っております。
また、過酷な勤務状況等から「転職したい」「医局を辞めたい」等と考えている方は医局の辞め方-退局を希望する医師が必ずすべきことのページもご覧になってみてくださいね。